平成24年4月 第2回龍馬塾「坂本龍馬の経営術」

平成24年4月 第2回龍馬塾「坂本龍馬の経営術」

 

4月15日(日)午後6時30分〜8時、北海道坂本龍馬記念館ホールにて、第2回龍馬塾「坂本龍馬の経営術」が開催されました。今回は経営者、会社員、主婦、正会員など7名の受講者と1名の取材記者の方々が参加、私・三輪貞治が講師を担当させていただき、龍馬の事業家としての足跡や商社設立の目的、龍馬の経営術などについて、様々なエピソードや対話を織り交ぜながら進めていきました。




 本題に入る前に、北海道新聞の『なぜ、政治家は龍馬が好きなのか』という特集記事の内容を参照しながら、日本の現状(東日本大震災後の混迷/政治体制の制度疲労/諸外国からの外圧など)と幕末の動乱(天保の飢饉などの混迷/徳川幕府の衰退/黒船来航に端を発した外圧など)の類似性や、それが平成の坂本龍馬待望論につながっていること、また、大政奉還や議会開設を含む「船中八策」の内容に触れ、龍馬の先見性や柔軟な発想などについて解説しました。

 今回は受講者の方々と対話しながら進行し、前回に引き続いて参加したホテル経営者の方は、ホテル所在地がかつて新選組の屯所だったことから幕末維新に興味を持ったこと、また、小説『燃えよ剣』を読んだことがきっかけで幕末に興味を持ったビジネスマン、龍馬の経営手法を知りたいと参加した龍馬ファンなど、参加された皆さんそれぞれの思いや感想なども発表していただきました。

■テーマ1「龍馬の足跡」

@幕末の時代背景  龍馬が活躍した幕末は、天保の飢饉により米価が高騰し、一揆や打ちこわし(大塩平八郎の乱など)が起こると共に、外交問題が絡まって幕府への不満が高まる中、水戸学などの影響により、天皇(朝廷)を中心とした新たな政治体制を作ろうという機運が高まりました。

A脱藩  そんな中、龍馬は28歳で脱藩(亡命)します。脱藩するということは、日々の糧を失い、かつ罪人になる命懸けの行動でした。それゆえに脱藩直後の龍馬は知人から借金をしたり、親族からの援助を受けながら江戸へ向かいました。ちなみに、龍馬が生まれた坂本家はかなり裕福な家でした。また、本家の才谷家は城下屈指の豪商だったことから、龍馬は幼い頃から家族や使用人に囲まれてのびのびと育ち、本家の才谷屋を通じて商いというものを肌で感じながら育ったものと考えられます。

B勝海舟門下生時代  やがて龍馬は江戸で勝海舟に弟子入りし、勝の援助を受けながら神戸海軍操練所で学び、勝塾の塾頭も務めました。そしてこの時期、後に同志や部下となる多くの人物と出会います。また、この時期すでに龍馬は開拓と防衛を目的として蝦夷地開拓の準備を進めていました。しかし、池田屋事件に勝塾の塾生(望月亀弥太)が含まれていたことなどからやがて海軍操練所が閉鎖され、龍馬の第一次蝦夷地開拓計画も実現しませんでした。

C亀山社中・海援隊時代  後ろ盾を失った龍馬でしたが、やがて薩摩藩の出資を受けて亀山社中を創設します。亀山社中は日本初の株式会社(商社)とも言われていますが、薩摩に対する配当などは行っておらず、営利を主たる目的としていないため、NPO的要素が強いともいえます。

 ですから、龍馬は薩長同盟締結に向けての武器取引の斡旋などを行っていますが仲介料を受けとった形跡もなく、その後船のトラブルが重なった亀山社中は次第に経営難に追い込まれます。先見性と柔軟な発想で事業を推進した龍馬も実はお金には苦労していました。しかし、常に平等を旨としていた龍馬は、自分を含め隊員の給料は全員同額にしていたといいます。

 一時は解散も考えた亀山社中ですが、その後もメンバーのほとんどが龍馬と行動を共にしたいと望み、そんな矢先に土佐藩参政・後藤象二郎から龍馬へ会見の申し出が入りました。後藤にとって社中の航海術や人材は魅力であり社中を土佐藩の配下に置きたかった、また、龍馬にとっても土佐藩の後ろ盾を得られることは願ってもないことで、二人は意気投合し、やがて亀山社中は土佐海援隊として生まれ変わります。  勝海舟門下生時代から海援隊に至るまで、龍馬は数度に渡って蝦夷地開拓を試みていました。それは、前述の防衛や貿易という目的の他にも、同志たちの生活の糧を得るという側面もありました。龍馬は身近な同志たちのことから日本の将来至るまでを考えながら事業経営を進めていたのです。

■テーマ2「商社設立の目的とは?」

 勝海舟から大きな影響を受けた龍馬は、主に以下の目的達成を目指して商社を設立しました。○日本を植民地にされないために、内乱を避け、新政府を樹立して統一国家日本をつくる、○そのために、外国との貿易によって国力をつける、○防衛のための海軍(軍艦と人材)の必要性⇒亀山社中・海援隊は私設海軍としての側面も持っていました、○これらを遂行するための「資金づくり」と「人材育成」、以上が主たる目的といえるでしょう。これは、海援隊発足時にまとめられた隊員の規則書『海援隊約規』からも窺い知ることができます。

   『海援隊約規』(現代語訳)

一、およそかつて本藩を脱する者、他藩を脱する者 海外に志ある者、みなこの隊に入る資格あり。運輸、営利活動、開拓、投機、本藩の応援をもって主業務とする。 今後、異論なくば方針にかなう業務はこれに加わる。

二、およそ隊中のことのいっさいは隊長の処分にまかせる。隊員は、隊長の指示方針などに違背してはならない。もし暴乱、違反行為、隊に対する迷惑行為などがあれば、隊長がその死活を制することを許す。

三、隊中にあっては、互いの困難を助けあい、守りあい、互いの気分が緩んでいるときには責めあい、道理や筋道の通らぬことは正しあい、独断で過激な行為に走るのを制しあうこと。仲間の邪魔をしたり、集団で他人の行為の邪魔をするなどの行為は、もっとも慎むべき所で決してこれを犯してはならない。 

四、隊中の修業分課は、政法、火技、航海、汽機、語学等のごとき、その志に従ってこれを学ぶ。互いに勉励し、怠ってはならない。

五、隊中の活動は独立採算。活動に要する経費などは、隊の活動で得た利益でまかなうこと。収益は互いに分配し、私腹を肥やしてはならない。万が一、資金が足りず、修業に支障がでるような場合には、隊長が建議し、出崎官役の支給を待つこと。

■テーマ3「龍馬の経営術について」

 龍馬は、商社を設立によって次のような事業を広く展開しました。○仲介・斡旋業(船や武器など)、○海運・貿易、○人材育成と派遣業、○教育・出版など。これらの事業を有機的に組み合わせ、それを営利目的ではなく国事のために推進したのです。

 これらの事業は時代を先取りしたもので、龍馬がいかに未来を見据えて事業展開をしていたかがわかります。そして龍馬が最も大切にしていたことは、常に平和的に、人とのつながりを重点を置いた「和」の精神でした。




■最後に

 龍馬は常に需要と供給のバランスを考え、求めている物を求めている人に売ることを考えていました。また、事業を行う際には費用とその捻出方法を考えました。それは商家で育った龍馬が、自然に学んでいったことかもしれません。

 龍馬亡き後、海援隊で龍馬とつながりのあった岩崎弥太郎が海援隊を引き継ぎ、後の三菱財閥を築いています。三菱、三井、住友といった総合商社という形態は日本独自のもので、政府とのつながりをうまく利用しながら資本力を強化し、輸出入を仕切りました。そして、これらの総合商社が日本の経済をけん引することで日本は急速な経済発展を遂げ、他のアジア諸国のような植民地にならずにすんだともいえるでしょう。

 最後に、事業家としての龍馬の要素をまとめてみたいと思います。まず、最も大切なことは全ての原動力となる高き「志」、そして事業推進に不可欠な人間関係を築く「信頼」、そして命懸けで取り組む「覚悟」、既成概念にとらわれない「柔軟な発想」、そして卓越した「実行力」。事業経営はこれらの要素の深さによって、その成果の度合いが変わるのではないでしょうか。

 終了後も龍馬談議は続きました。“もし、今龍馬が生きていたら何をしているか?”の問いに対し、“日本を離れ世界をまたにかけて事業を展開している”、“新しい政治勢力を作って政治改革を推進している”、“幕末同様に、事業展開しながら水面下で政治を動かしている”など話は尽きませんでした。
 5月は、幕末の志士たちがその熱い想いを詩に託して吟じたという「詩吟」をテーマに、水月流賢心朗吟会会長・宗家の湊賢心氏によるご講演と実演を予定しております。最近注目を集めている詩吟は、私たちが持っている日本人の心を呼び覚まし、鼓舞してくれることでしょう。

 定員となり次第締め切りとなりますので、お申込みはお早めにどうそ。

《第3回龍馬塾》 5/15(火) 午後6時30分〜8時

「詩吟入門」 講師:湊賢心(水月流賢心朗吟会会長・宗家) 詩吟は幕末の私塾等での漢詩の素読がルーツで、幕末の志士達も熱い想いを表現するために好んで詩を吟じました。

《第4回龍馬塾》 6/15(金) 午後6時30分〜8時

「幕末の蝦夷地と北方領土」 講師:加藤潔(前函館市立青柳小学校校長) 江戸時代から続く北方領土問題や、龍馬が目指した蝦夷地(北海道)の古今をわかりやすく解説。

●対 象:どなたでも受講できます(要予約)
●定 員:20名(定員になり次第締切り)
●協力金:500円(1回につき/資料代含む/正会員無料)
●会 場:北海道坂本龍馬記念館ホール(十字街電停前)
●申込み:北海道坂本龍馬記念館(www.ryoma1115.com)
TEL 0138-24-1115 / FAX 0138-24-1116 E-mail:ryoma1115@amail.plala.or.jp