平成24年7月 第5回龍馬塾「書道」

平成24年7月 第5回龍馬塾「書道」

 

 7月15日(日)午後6時30分〜8時、北海道坂本龍馬記念館ホールにて第5回龍馬塾「書道」が開催されました。今回は正会員、会社員、主婦など計10名が受講されました。 
講師を担当してくださった上山天遂(かみやま・てんすい)氏は読売書法会理事、北朋印社代表などをつとめられ、書道の普及や指導に尽力しておられます。また、龍馬祭や幕末維新人物イラストコンテスト表彰式など、記念館主催行事の際には会場看板の執筆などでご協力いただいています。
今回の龍馬塾では、単に書道を学ぶだけではなく、龍馬をはじめとする幕末維新の志士たちがそうであったように、参加者の皆さんそれぞれの志や目標を巻き紙に記し、志士たちに思いを馳せ、書を通じて自らを高めることを目的に実施されました。
 最初に今回の手本となる龍馬の手紙が紹介されました。これは、龍馬が蝦夷地(北海道)開拓について同志に宛てたもので、“たとえ一人でも蝦夷地開拓をやり遂げるつもりです”という、いわば龍馬の決意表明といえるものです。


小弟ハエゾ(蝦夷)に渡らんとせし頃より、新国を開き候ハ積年の思ひ
一世の思ひ出ニ候間、何卒一人でなりともやり付申すべくと存居申候
(慶応3年3月6日 長府藩士・印藤聿宛て)




 

当時は巻紙を左手に持ちながら、墨を用いて筆で手紙を書きました。龍馬の手紙は草書体というくずし字が使用されていますので、最初に龍馬の手紙の原文を見ながらくずし字の解説が行われました。上山氏によると、龍馬の字はくせがありますが、割合読みやすいとのことです。ちなみに、こういった過去の時代の文書のことを一般的に古文書(こもんじょ)と呼びます。

■道具について
硯(すずり)は、最近は主にプラスチックで加工されたものが多く出回っています。表面は一見平らなように見えますが、実は細かい山があり、これによって墨が削り出されます。この細かい山がある石が硯の材料に適しており、中国産や日本産のものがあるそうです。日本では主に山梨県や宮城県などで産出されるそうですが、現在は量が少なく、大変貴重で高価です。
次に筆ですが、幕末と現在では筆の構造が違うそうで、昔は材料が少なく貴重だったため、毛と和紙を重ね合わせて筆を作り、主に写経用として使用されていました。芯の部分には主にうさぎの毛が使われ、特に固くて弾力がある黒い毛は紫毫(しごう)と呼ばれて珍重されていたそうです。他にも羊、ヤギ、イタチ、馬、タヌキ、リス、鹿、鳥の毛なども使用されていました。
最後に墨ですが、現在墨汁という形で販売されているものはほとんどが化学製品で、もともとの墨は油や樹脂などを燃やして作られるほか、かつては松を燃やして作った松煙(しょうえん)と呼ばれる墨が安価で大量に作られ、一般的に使用されていたということです。今日は上山氏が準備してくださった松煙墨を使用しました。




■練習
 まずは龍馬の手紙を手本にして練習を行いました。草書体の要領や書き順の解説の後、実際に巻紙を持って練習を行いました。上山氏から“龍馬になりきって書いてみてください”とのアドバイスに、皆さん初めはちょっと緊張気味でしたが、慣れてくるにつれて書く姿も板につき、それぞれの人柄が字に表れてきたようです・

■志士の書について
練習の合間に、上山氏から以下のような知識やエピソードが紹介されました。
書には人柄が出ます。幕末の志士たちの書に共通する要素として、意志をはっきりと表した字を書く人が多いといえます。例えば西郷隆盛の書は、どっしりとして何物にも動じないといった感じがします。また、幕末三舟(勝海舟・橋泥舟・山岡鉄舟)もすばらしい書を書きます。(※ちなみに幕末三舟の書については、三人の墨跡が記された扇子と、徳川家康の人生訓である「東照公御遺訓」を三人が記した書が記念館に展示されています。ぜひ、実際に観てその違いを比較してみてください)
龍馬の字のくせは右肩上がりですが、右肩上がりの字を書く人の特徴は「気が強い人」といわれているそうです。あなたはいかがですか?

■清書
龍馬の手紙を手本として、いよいよ皆さんそれぞれが自分の志や目標を清書しました。“いつかは巻き紙にさらさらと美しく字が書けるようになりたい”、“世の為人の為に貢献できる思想家になりたい”、“龍馬のように社会で活躍したい”、“早く就職先を見つけたい”、“家族みんなが末永く幸せでありますように”などといった内容のほか、得意の墨絵で龍馬の銘酒のイラストを描き加えた方もいて、参加された皆さんそれぞれの個性や人柄が表れ、楽しみながら「幕末の書」を体感できたようです。




最後に龍馬の肖像写真の前で記念撮影が行われ、上山氏より次のようなメッセージをいただきました。
「これを機会に、ぜひ筆を持つ機会を増やしてもらえればと思います。龍馬はかなり緊張感のある手紙を書いています。そして、手紙書く時は常に自分の考えはまとまっていますから、たぶんスラスラと書いていたと想像できます。皆さんも自分の思いを書く機会を増やせば筆も進むようになり、また、自分らしさが出てくると思います」
「墨を使い、筆で和紙に書を書く」という方法は、パソコンや携帯電話が普及した現代社会においてはなおのこと、味わい深く、書く人の思いが込められ、読む側にもそれが伝わる貴重な伝達手段だと思います。
龍馬の「日本のせんたく」、そして「蝦夷地開拓」への熱い思いは、その手紙を通じて、約150年を経た今でも、私たちの心に強く響いてきます。現代の日本人にとって、書道をはじめとする伝統文化を見直すことの重要性を改めて実感する龍馬塾となりました。